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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)13117号 判決 1998年9月25日

大阪市生野区巽中一丁目七番一〇号

原告

愼秀一

右訴訟代理人弁護士

西口徹

寺内清視

千田適

三浦直樹

東京都新宿区西新宿三丁目一九番二号

被告

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

宮津純一郎

右代理人支配人

浅田和男

右訴訟代理人弁護士

真砂泰三

岩倉良宣

右真砂泰三訴訟復代理人弁護士

中川由章

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

谷岡賀美

山本弘

植野寿二

原田久

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自一〇〇六万五一四〇円及び内金九〇六万五一四〇円に対する平成九年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告国は、原告に対し、一〇〇万円及びこれに対する平成九年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告日本電信電話株式会社)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告国)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、昭和四一年七月ころ、金福順(以下「金」という。)及び韓錫晋(以下「韓」という。)とともに、西田伊佐男(以下「西田」という。)から、大阪市生野区巽中一丁目一〇五番一所在の宅地一五二七・二七平方メートルのうち、一四〇八・三九平方メートル(以下「旧借地」という。)を賃借した。

なお、旧借地は、昭和五七年三月五日、大阪市生野区巽中一丁目一〇五番一(以下、地番のみ記載する。)、一〇五番四、一〇五番五、一〇五番六、一〇五番七に分筆され、さらに、右一〇五番一の土地は、昭和六〇年三月一日、一〇五番一及び一〇五番九に分筆された(以下、特に断りがない限り、現在の地番を記載する。)。

(二)  昭和五七年一月下旬ころ、原告、金及び韓は、西田から、旧借地の一部(一〇五番一及び一〇五番九の各土地)上に保育園を建てたいので明け渡してほしい旨の申し入れを受け、同年三月ころ、原告、金及び韓と西田は、旧借地上の借地権と原告につき、一〇五番四及び一〇五番六の各土地の所有権並びに一〇五番一及び一〇五番九の各土地(昭和五七年三月当時は分筆前の一〇五番一の土地・以下「本件土地」という。)における五四・四六坪相当の共有持分(以下「本件共有持分」という。)を、金につき、一〇五番七の土地、韓につき、一〇五番五の土地の各所有権を等価交換する旨の契約(以下「本件等価交換契約」という。)を締結した。

(三)  なお、原告は、本件等価交換契約締結に際し、西田との間で、本件土地上に保育園を開設した場合には、本件共有持分を放棄する旨の特約を締結したものの、結局保育園は開設されなかった。

2  原告は、昭和六〇年三月七日、披告日本電信電話株式会社(以下被告「NTT」という。)の前身である日本電信電話公社(以下「公社」という。)に対し、本件共有持分を六五二〇万円で売却し、原告は、同月一三日、公社から、売買代金として右六五二〇万円を受領した。

3(一)  ところが、被告国の徴税機関である生野税務署は、本件共有持分の売買代金六五二〇万円につき、本件等価交換契約に基づく交換差益であると主張した。これに対して原告は、生野税務署に対し、西田との等価交換により取得した本件共有持分を公社に売却したことにより取得した売買代金である旨の説明をしたものの、生野税務署はこれを聞き入れず、交渉の結果、生野税務署は、原告に対し、被告NTTの公共事業用資産の買取り等の証明書(以下「買取証明書」という。)を提出するよう要求してきた。

(二)  原告は、右要求に従い、被告NTTに対し、買取証明書を交付するように交渉したが、被告NTTは、これを聞き入れなかった。

(三)  そのため原告は、買取証明書を生野税務署に提出できず、生野税務署長は、原告に対し、被告NTTから受領した六五二〇万円について、本件共有持分の売買代金ではなく、本件等価交換契約に基づく交換差金であるとして、昭和六三年三月五日付けで、昭和五七年分所得税の更正及び重加算税の賦課決定処分(以下「昭和六三年更正処分」という。)をした。

(四)  その後、原告は、自己の知人で鹿児島居住の前田行男(以下「前田」という。)に対し、被告NTTから買取証明書の交付を受けるための交渉を依頼し、原告と前田は昭和六三年五月一一日、同月二七日、同月三一日、同年六月九日、同月一六日、同月三〇日及び同年七月四日、被告NTTの草加英資常務(以下「草加常務」という。)あるいは豊田友彦建築総合センター所長(以下「豊田所長」という。)らと交渉し、これにより、原告は、被告NTTから、同月六日、公共事業用資産の買取り等の申出証明書(以下「申出証明書」という。)の交付を、さらに、同月二七日ころ、買取証明書の交付を受け、それぞれ、そのころ生野税務署長に提出した。

(五)  これに伴い生野税務署長は、平成元年三月一〇日付けで昭和六三年更正処分を取り消し、同日付けで原告に対し、昭和六〇年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「平成元年更正決定」という。)をした。

4  被告NTTの責任

被告NTTは、昭和六〇年三月当時、日本電信電話公社として原告が共有持分を有する本件土地を公共事業を行うために買収したのであるから、租税特別措置法三三条の四第四項及び第六項に基づき、原告に対して、原告の有する共有特分を公共事業を行うために買収したことを証明する資料として買取証明書を速やかに交付すべき義務があった。しかるに被告NTTはこれを怠り、原告の求めに応じず、原告が本件土地に共有持分を有していることを知りながら、これを否定し、速やかに買取証明書を交付することを怠った。

5  被告国の責任

(一) 生野税務署は、原告に対し、被告NTTから受領した六五二〇万円が売買代金であるなら被告NTTの買取証明書を提出するよう要求しながら、他方では、被告国の見解の正当性を強引に貫徹すべく、生野税務署の職員は、被告NTTに対して買取証明書を原告に交付しないように圧力をかけ、これにより、原告は、当初、被告NTTから買取証明書の交付を受けることができず、そのため、生野税務署長は、原告に対し、右六五二〇万円が交換差金であることを前提とする昭和六三年更正処分をした。

(二) 前記3(一)記載のとおり、生野税務署の職員が原告の主張を十分聞き入れず、また、調査義務を尽くさなかったために、生野税務署長は、原告が公社から受領した六五二〇万円を本件等価交換契約に基づく交換差金であると誤って判断し、その結果、原告に対し、昭和六三年更正処分をした。

(三) 原告は、昭和六三年七月六日、被告NTTから申出証明書の交付を受け、そのころ、右申出証明書を生野税務署長に提出した。これにより生野税務署長は、まず、昭和六三年更正処分を取り消し、その上で原告に昭和六〇年分の所得税についての申告の機会を与えるべきであった。しかるに生野税務署長は、これを怠り、平成元年三月一〇日付けで昭和六三年更正処分を取り消し、同日付けで平成元年更正処分をすることにより、原告に申告の機会を与えず、違法に平成元年更正処分をした。

6  損害

(一) 原告は、前田に被告NTTとの交渉を依頼し、別紙NTT交渉経費一覧表記載のとおり、五〇六万五一四〇円を支出した。

(二)(1) 原告は、戦前に来日した在日朝鮮人で、朝鮮人であるが故に様々な差別を受けてきた者であるが、これまで在日朝鮮人の税金問題に関する運動を続けており、在日朝鮮人大阪府商工会及びその支部である大阪府中西朝鮮人商工会(以下「中西商工会」という。)を通じて税金を申告してきた。

(2) このような経歴を持つ原告にとって、昭和六三年更正処分で所得税の更正のみならず、懲罰的意味をもつ重加算税の賦課決定処分をされたこと自体著しく原告の名誉及び信用を毀損するものである。これに加え、平成元年更正処分で所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定処分をされたことは二重に原告の名誉及び信用を毀損するものである。

(3) 以上のとおり、原告の名誉及び信用の毀損の程度は著しく、これらの処分により原告は精神的苦痛を被り、昭和六三年更正決定により原告の受けた損害は四〇〇万円を下らず、また、平成元年更正決定により原告の受けた損害は一〇〇万円を下らない。

(三) 弁護士費用一〇〇万円

7  被告国の職員は、被告NTTに対して買取証明書を原告に交付しないように圧力をかけ、これに基づき被告NTTが当初、買取証明書を交付しなかったことにより、原告は、前記6(1)の交渉費用を支出し、また、昭和六三年更正処分を受けたのであるから、その範囲で、被告NTTと被告国の共同不法行為を構成する。

8  よって、原告は、被告NTTに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、一〇〇六万五一四〇円及び内金九〇六万五一四〇円に対する不法行為の後である平成九年一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告国に対し、不法行為による損害賠償請求権(国家賠償法一条一項)に基づき、一一〇六万五一四〇円及び内金一〇〇六万五一四〇円に対する不法行為の後である平成九年一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

(被告NTTの認否)

1(一) 請求原因1(一)の事実は知らない。

(二) 同1(二)の事実のうち、原告が主張する内容の等価交換契約が締結されたとする点は否認し、その余の事実は知らない。原告、金及び韓が西田との間で等価交換により旧借地の借地権と一〇五番四から一〇五番七までの各土地の所有権を交換し、交換差金として西田が原告に七五二〇万円を支払う旨の契約をしたものである。

(三) 同1(三)の事実のうち、保育園が開設されなかったとする点は認め、その余の事実は否認する。

2 同2の事実のうち、原告が昭和六〇年三月一三日、公社から六五二〇万円を受領したとする点は認め、その余の事実は否認する。

3(一) 同3(一)から(三)まで及び(五)の事実は知らない。

(二) 同3(四)の事実のうち、昭和六三年五月一一日、同月二七日及び同年七月四日、原告と前田が被告NTTの草加常務又は豊田所長と会ったとする点並びに同月六日、原告が被告NTTから申出証明書の交付を受けたとする点は認め、その余の事実は知らない。

4 同4の主張は争う。

5(1) 同6(一)、(二)(1)及び(三)何の事実は知らない。

(二) 同6(二)(2)及び(3)の事実は否認する。

6 同7の主張は争う。

(国の認否)

1(一) 請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 同1(二)の事実のうち、原告が、一〇五番四及び一〇五番六の各土地の所有権を取得したとする点及び本件土地について共有持分を取得したとする点は認め、その余の事実は知らない。

(三) 同1(三)の事実は知らない。

2 同2の事実は認める。

3(一) 同3(一)の事実のうち、生野税務署が本件共有持分のの売買代金を交換差金と判断したとする点及びこれに対して原告が西田との等価交換により取得した本件共有持分を公社に売却したことにより取得した金員であると説明していたとする点は認め、生野税務署が、原告に対し、被告NTTの買取証明書を提出するよう要求してきたとする点は否認し、その余の事実は知らない。

(二) 同3(二)の事実は知らない。

(三) 同3(三)の事実は認める。

(四) 同3(四)の事実のうち、原告が被告NTTから申出証明書及び買取証明書の交付を受けたとする点は認め、その余の事実は知らない。

(五) 同3(五)の事実は認める。

4(一) 同5(一)の事実は否認する。

(二) 同5(二)のうち、生野税務署長が、原告が公社から受領した六五二〇万円を交換差金であると判断したとする点及び昭和六三年更正処分をしたとする点は認め、その余の主張は争う。

(三) 同5(三)の事実のうち、申出証明書を生野税務署長に提出したとする点、平成元年三月一〇日付けで昭和六三年更正決定を取り消し、同日付けで本件共有持分についての昭和六〇年分の譲渡所得についての更正処分及び過少申告加算賦課決定処分を行ったとする点は認め、原告が昭和六三年七月六日に申出証明書の交付を受けたとする点は知らない。その余の主張は争う。

5(一) 同6(一)、(二)(1)及び(三)の事実は知らない。

(二) 同6(二)(2)及び(3)の事実は否認する。

6 同7の主張は争う。

(被告NTTの主張)

1 被告NTTが、原告に対して、当初、買取証明書を交付しなかったのは、次のとおり相当な理由に基づくものであり、買取証明書の不交付が、被告NTTの不法行為に該当するとの原告の主張には理由がない。すなわち、本件等価交換契約締結に際し、その付随条項として、西田と原告との間で次のとおりの合意がなされた。

(一) 西田は、本件等価交換契約について、原告に対し、交換差額として七五二〇万円の支払義務があることを認め、次のとおり支払う。

(1) 昭和六〇年二月二八日限り一〇〇〇万円

(2) 昭和六一年二月二八日限り六五二〇万円

(二) 原告は、西田が昭和六一年二月二八日までに本件土地上に保育園を開設したときは、右(一)(2)の支払義務を免除する。

2 公社と西田は、昭和六〇年三月七日、本件土地についての売買契約(契約代金二億四一八三万五七〇〇円。ただし、右1(一)(2)の交換差金六五二〇万円を含む。)を締結した。

3 右代金の支払日は昭和六〇年三月一三日であるが、その直前である同月一一日、原告は、公社に対して、六五二〇万円(右交換差金)は原告の権利であるので原告に直接支払うよう申入れをした(なお、交換差金七五二〇万円のうち、右2(一)(1)の一〇〇〇万円は、昭和六〇年二月二八日、西田から原告に対して既に支払われていた。)。

4 公社は、原告の右申入れを拒否したが、西田より、売買代金を原告の主張するように分けて早期に支払って欲しい旨の依頼があったため、昭和六〇年三月一二日付けで西田から契約代金代理受領に関する覚書の提出を受け、公社は、西田の依頼に基づき、同年三月三日、本件土地の売買代金を、西田へ一億七六六三万五七〇〇円、原告へ六五二〇万円送金して支払った。

5 ところが、公社は、売主である西田の依頼に基づき、売買代金の一部を代理受領者である原告に送金したに過ぎないにもかかわらず、原告はこれを公社が原告の権利を認めたものと主張し、被告NTTに対し、原告に対する買取証明書の交付を要求してきた。被告NTTは、当初の契約の経緯に基づき、原告に対する買取証明書の提出を断っていたが、折衝等を重ね、円満解決の見地から、昭和六三年七月六日、原告に対して買取証明書を交付した。

6 以上のとおり、原告は本件土地についての共有持分は有しておらず、公社は西田との間で本件土地の売買契約を締結し、西田と原告との間で、交換差金に関する債権債務関係があったに過ぎないのであるから、被告NTTが、原告に対して、当初、買取証明書を交付しなかったことは相当な理由に基づいており、被告NTTに対する不法行為の主張は理由がない。

(被告国の主張)

1 被告国の圧力について

被告NTTが原告に買取証明書を交付するに当たり、生野税務署の職員が被告NTTに対して圧力をかけたような事実は全くないし、そのような圧力をかけるを必要もないのであり、生野税務署の職員が被告NTTに圧力をかけたとする原告の主張は理由がない。

2 昭和五七年分の所得税の税務調査について

原告は、生野税務署の職員が昭和六一年一〇月一四日から一年余りの間、再三面接の申し入れをしたにもかかわらず、これに応じず、ようやく、昭和六三年二月二八日に至って、原告は、生野税務署の職員との面接に応じたが、公社から受け取った六五二〇万円は、本件等価交換契約に基づく交換差金でなく、本件土地について有していた共有持分の売買代金であると主張するばかりで、右事実の詳しい説明もせず、また、それを証する資料も提出しなかった。このように、昭和五七年分の所得税の調査においては、原告自身が生野税務署の職員との面接をいたずらに引き延ばし、また、右六五二〇万円の性格についても共有持分であると主張するばかりで、その根拠を説明せず、資料の提出もしなかったものであり、他方、生野税務署の職員は、西田との面接等可能な限りの調査を行ったものであるから、生野税務署の職員が十分な調査をしなかったとする原告の主張は理由がない。

3 昭和六〇年分の所得税の申告の機会について

本件では、原告に対する税務調査の着手自体が、原告の昭和六〇年分の所得税の申告期限である昭和六一年三月一五日の約七箇月後である昭和六一年一〇月であって、そもそも、原告の昭和六〇年分の所得税の申告について本件税務調査は何らその障害となり得ないものであるから、原告が被告NTTから受領した六五二〇万円について、原告の自主的な判断で申告する機会が十分にあった。また、生野税務署の職員は、昭和六三年更正処分の異議調査において、原告が公社から受領した六五二〇万円が本件等価交換契約に基づく交換差金には当たらないことが判明したため、昭和六三年九月六日、昭和六三年更正処分を取り消すこと、そうすると、右六五二〇万円は原告の昭和六〇年分の譲渡所得として課税されることとなるから昭和六〇年分の所得税の修正が必要であることを原告に伝え、被告国の職員は、その後、平成元年更正処分を行った平成元年三月一〇日までの間、原告に対して、再三昭和六〇年分の所得税について修正するように指導した。

以上のとおりであるから、昭和六〇年更正処分の取消しと平成元年更正処分が同日付けでなされたことをもって、直ちに生野税務署長に職務上の法的義務違背があるとはいえず、生野税務署長の行為を国家賠償法上の違法ということはできない

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(一)の事実について

証拠(甲第二号証、甲第四号証の1、甲第七号証、乙B第七、八号証、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1(一)記載のとおりの事実を認めることができる。

二  請求原因1(二)の事実について

1  証拠(甲第二号証、甲第三号証の1から7まで、甲第四号証の1、甲第五号証から甲第七号証まで(ただし、いずれも後記信用しない部分を除く。)、甲第九号証から甲第一五号証まで、乙A第一、二号証、乙A第三号証の1、2、乙A第四号証、乙A第五号証から乙A第一一号証まで、乙B第二号証、乙B第三号証の1、乙B第四号証から乙B第六号証まで、乙B第七号証(ただし、後記信用しない部分を除く。)、乙B第八号証、乙B第九号証(ただし、後記信用しない部分を除く。)、証人前田行男(以下「証人前田」という。) の証言(ただし、後記信用しない部分を除く。)、証人藤原正男の証言、証人田中耕司の証言、原告本人尋問の結果(ただし、後記信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができる(ちなみに、被告国については、請求原因1(二)の事実のうち、原告が一〇五番四及び一〇五番六の各土地の所有権を取得した事実及び原告が本件土地について共有持分を取得した事実は当事者間に争いがない。)。

(一)  原告は、昭和四一年ころから、原告の妻である金及び原告の甥である韓とともに、西田から、旧借地を賃借していたが、西田は、自己の経営する幼稚園の園児数が減少し、幼稚園の経営に支障を来すようになってきたことから、幼稚園の経営を立て直すために保育園を併設しょうと考え、昭和五七年一月下旬ころ、原告に対し、旧借地を明け渡して欲しい旨の要請をした。これに対し、原告らは、西田の右要請を受け入れることとし、一〇五番一の土地が、一〇五時一、一〇五番四、一〇五番五、一〇五番六、一〇五番七及び一〇五番八に分筆(ただし、旧借地は、分筆後の一〇五番一、一〇五番四、一〇五番五、一〇五番六及び一〇五番七に相当する。)された上で、所有権と借地権を等価交換することに合意し(本件等価交換契約)、その結果、金は一〇五番七の土地、韓は一〇五番五の土地の所有権をそれぞれ取得し、原告は、一〇五番四及び一〇五番六の各土地の所有権を取得し、さらに、西田は、原告に対し、本件等価交換契約に基づく交換差金として七五二〇万円の支払義務あることを認め、原告に対して昭和六〇年二月二八日限り一〇〇〇万円、昭和六一年二月二八日限り六五二〇万円をそれぞれ支払うことを約した。しかし、その際、原告は、西田の親に世話になつたこともあり、また、保育園の開園という教育事業に賛同する見地から、西田が昭和六一年二月二八日までに本件土地上で保育園を開園した場合には、昭和六一年二月二八日支払期日の右六五二〇万円の支払を免除することとし、乙A第三号証の2の覚書(以下「本件覚書1」という。)が作成された。その後、原告らは、旧借地上の建物を後記温室を除いて撤去した。

(二)  公社は、昭和五九年四月一〇日ころ、西田に対し、電話ケーブルの地下埋設工事のためのとう道立坑用地として本件土地の買収を申し入れた。これに対し、西田は、本件土地上に保育園を開園することを考えているものの許認可の関係で本件土地上に保育園を開園することができなくなる可能性もあることから、その場合には公社に対して売却してもよい旨回答し、その後、西田が保育園の開園を断念したことから、公社と西田との間で本件土地の買収交渉が進展し、昭和五九年一一月ころには、西田が、公社に対し、本件土地を売却することで概ね合意が成立した。

公社は、西田から、本件土地は西田の単独所有であると聞かされていたものの、西田から、本件土地の買収交渉中に、本件等価交換契約に付随して、西田が原告に対して交換差金として七五二〇万円を支払うこと等を内容とした覚書(本件覚書1)が存在することを告げられていたことから、原告に対しても本件土地が西田の単独所有であることを確認しておく必要があると考え、昭和五九年一二月一一日、公社の交渉担当者であつた藤原正男調査役(以下「藤原調査役」という。)らが原告宅を訪ね、原告に対し、本件覚書1の内容について尋ねたところ、原告は、本件覚書1の六五二〇万円は土地についての権利ではなく、本件土地は西田が原告の了解なく売却できる土地であり、その場合に原告に六五二〇万円を支払えばよいものである旨答えた(なお、原告は、西田が原告の了解なく本件土地を売却できると答えたことはない旨の供述をするも、後記二2での認定説示及び乙A第七号証の記載に照らし、信用できない。)。

(三)  原告は、公社及び西田から、本件土地の買収交渉に関する話は聞いていたものの、原告は、本件土地の売買について、公社に対して原告とも交渉するよう申し入れることもなく、また、西田と公社の間で行われた売買代金や売買契約締結日等についての交渉内容についても、特に尋ねるようなこともなかった。

(四)  公社が本件土地を買収するに際して、本件土地の片隅に原告所有の温室が存在していたことから、売買契約に先立つ昭和六〇年三月一日、本件土地は一〇五番一と一〇五番九に分筆され、公社は、同月七日、西田から一〇五番一の土地を購入し(以下「本件売買契約」という。)、原告は、同月二二日、西田から一〇五番九の土地を購入した。

(五)  しかし、公社が西田に対して本件売買契約に基づく売買代金を支払う直前である同月一一日に至り、原告は、公社に対して、本件覚書1記載の六五二〇万円を直接原告の口座に振り込み送金するように要請した。公社は、当初、これに難色を示していたものの、既に売買契約も締結されており、西田の要請もあったことから、本件売買契約に基づく売買代金の内金六五二〇万円につき、原告を受領代理人と定める旨記載された委任状(乙A第三号証の1・以下「本件委任状」という。)、原告及び西田の印鑑登録証明書並びに本件売買契約に基づく売買代金二億四一八三万五七〇〇円の内金六五二〇万円を原告に直接送金してほしい旨及び公社が右六五二〇万円を原告に送金することによって公社に迷惑をかけるようなことはしない旨記載された覚書(乙A第四号証・以下「本件覚書2」という。)の提出を受けた上で、昭和六〇年三月一三日、原告の銀行口座に六五二〇万円を送金した。

(六)  昭和六〇年四月一日、公社の事業を引き継いで被告NTTが設立された。

(七)  本件等価交換契約に基づき原告が所有権を取得した一〇五番四及び一〇五番六の各土地については原告を単独所有者とする所有権移転登記が経由されたものの、本件土地については、本件等価交換契約締結後も西田を単独所有者とする登記に変更は加えられず、原告と西田の共有とする登記は経由されなかった。

(八)  原告は、昭和五七年分の所得税の申告において、乙B第八号証の等価交換契約書を添付し、等価交換であるとして、収入金額一億二〇九四万四〇〇〇円、必要経費を一億二〇九四万四〇〇〇円、譲渡所得金額零円として申告した。また、原告は、昭和六一年分の所得税の確定申告の際に、公社から受領した六五二〇万円について、譲渡所得として申告することもなかった。

(九)  その後、昭和六一年八月末ころ、生野税務署の田中耕司調査官(以下「田中調査官」という。)らは、西田が公社に対して一〇五番一の土地を売却した件についての調査を開始した。西田は、田中調査官に対して原告が公社から受領した六五二〇万円は本件等価交換契約に基づく交換差金である旨答える等、西田に対する調査の結果、一〇五番一の土地の売買代金のうち、六五二〇万円が公社から原告に対して送金されたことが判明し、また、西田から、本件等価交換契約の契約書及び本件覚書1が提出され、これらのことから、原告が本件等価交換契約に基づき六五二〇万円の交換差金を受領しているにもかかわらず、右六五二〇万円につき所得税の申告をしていない疑いが出てきた。そこで、田中調査官は、原告の昭和五七年分の所得税の申告についての調査命令を受け、昭和六一年一〇月一四日、原告に対する調査を開始し、原告が所得税の確定申告を中西商工会を通して申告していたことから、中西商工会の玄華宗部長(以下「玄部長」という。)を通して、昭和六一年末までに約一〇回にわたり、原告に対して面接調査をしたい旨の要請をした。しかし、原告はこれに応じなかった。

その後も田中調査官は、原告に対して面接調査をしたい旨の要請をしたが原告はこれに応じず、そのため、生野税務署では、原告が公社から受領した六五二〇万円を本件等価交換契約に基づく交換差金であると判断し、田中調査官の上司である奥水昭男統括官(以下「奥水統括官」という。)は、原告に対し、昭和六二年一一月二七日ころ、玄部長を通じて原告が昭和五七年分の所得税について修正をしないのであれば更正処分をする旨を伝えた。

(一〇)  その後、田中調査官は、被告NTTからも調査するべく、昭和六二年一二月一〇日、原告が公社から受領した六五二〇万円の性格について被告NTTから調査した結果、西田が公社に対して一〇五番一の土地を売却した結果公社が西田に支払うべき売買代金の一部である六五二〇万円について、原告及び西田から、直接原告に送金して欲しい旨の要請があり、西田から本件委任状が提出されていたことが明らかとなり、被告NTTに対する調査の結果からも原告が公社から受領した六五二〇万円は本件等価交換契約に基づく交換差金である疑いが強まった。

(一一)  他方、原告は、昭和六三年一月二〇日ころに至り、生野税務署に対して、原告が公社から受領した六五二〇万円は原告が有していた共有持分を公社に売却したことに基づく売買代金であり、それを証明する書類を被告NTTに交付するように依頼中である旨申し入れてきた。そのため、生野税務署では、原告から右書類が提出されるのを待つこととし、実際に提出されるのを待っていたものの、いっこうに提出されないことから、生野税務署では、右書類の提出の督促を続けていたところ、原告から直接会って説明したい旨の要請があり、昭和六三年二月一六日、奥水統括官と田中調査官は原告宅を訪問し、直接原告から面接調査を行った。この際、原告は、右書類は提出せず、さらに、公社から受領した六五二〇万円は交換差金ではなく原告が有していた共有持分を公社に売却したことにより取得した売買代金であるから昭和五七年分の所得税については修正しない旨の回答をした。

(一二)  そのため、生野税務署長は、それまでの調査結果に基づき、昭和六三年三月六日付けで、原告に対して、所得税法五八条一項の適用を否認する昭和六三年更正処分をした。

(一三)  これに対して原告は、昭和六三年四月二二日、昭和六三年更正処分に対する異議申立てをし、さらに、被告NTTから買取証明書の交付を受けるべく、原告の古くからの知人であり、毎日新聞社の元記者で被告NTTの役員等と交際のある前田に対して、被告NTTから買取証明書を交付してもらうための交渉をするように依頼した。そこで、前田は、原告とともに、被告NTT東京本社において、草加常務に会い、買取証明書を交付するように求め、また、草加常務の紹介により、被告NTT関西総支社において、橋本市郎副支社長及び豊田所長に会い、買取証明書の交付を求めて交渉を重ねた。

(一四)  原告は、西田に対しても働きかけ、昭和六三年六月三日ころ、西田から、本件土地について原告が本件等価交換契約に基づき五四・四六坪相当の権利を有しており、原告及び西田と公社それぞれの間で、権利持分に相当する金銭の授受が行われた旨記載された確認書(甲第二号証、乙B第三号証の1・以下「本件確認書」という。)の交付を受け、昭和六三年六月一六日、本件確認書を、生野税務署に提出した。

(一五)  また、原告は、西田から交付を受けた本件確認書を被告NTTにも提出した。被告NTTでは、前記内容の本件確認書が提出され、また、前田及び原告が強く買取証明書の交付を求めていることから、円満解決の見地から原告に対して買取証明書を交付することとし、昭和六三年七月六日、原告に対し、昭和六〇年三月一日分筆前の一〇五番一の土地のうち五四・四六坪の買取りを申し出た旨記載された申出証明書(甲第三号証の3)を交付し、さらに、同月二七日ころ、原告から一〇五番一の土地のうち五四・四六坪を買い取った旨記載された買取証明書(甲第三号証の1、乙B第五号証)を交付した。

(一六)  生野税務署長は、同月六日ころ、原告から申出証明書の提出を受け、また、同月七日ころ、被告NTTから、申出証明書(甲第三号証の7、乙B第四号証)及び一〇五番一の土地についての原告の権利が存在したことを認めた事実認定書(甲第三号証の4、乙B第四号証)の提出を受け、さらに、同月二七日、被告NTTから、買取証明書が提出きれた。

(一七)  このように本件確認書、申出証明書、買取証明書及び事実認定書が提出されたことから、生野税務署では、原告が公社から受領した六五二〇万円は本件等価交換契約に基づく交換差金ではなく、原告が有していた共有持分を公社に売却したことにより取得した売買代金である旨の判断をし、昭和六三年更正処分を取り消す方針とした。そこで、奥水統括官の後任である勢口義矩統括官(以下「勢口統括官」という。)は、原告に対し、昭和六三年更正処分を取り消す予定であること及びそのような場合、原告が公社から受領した六五二〇万円は本件土地の共有持分の売買代金に当たることになるので、昭和六〇年分の所得税について申告を修正するように促した。しかし、原告はこれに応じなかった。そのため、生野税務署長は、平成元年三月一〇日付けで昭和六三年更正処分を取り消し、同日付けで平成元年更正処分をした。

もっとも原告は、生野税務署から昭和六〇年分の所得税の申告を修正するように促されたことはない旨の主張をし、玄華宗作成の陳述書(甲第五号証)にはこれに沿う記載がある。しかし、<1>原告作成の陳述書(乙B第九号証)及び玄華宗作成の右陳述書には、原告が生野税務署に買取証明書を提出した後、生野税務署は昭和六〇年分の申告を問題としてきた旨の記載があること、これに加えて、<2>乙B第二号証にも、生野税務署の勢口統括官らが原告に対し、昭和六〇年分の所得税について修正するように促していた旨の記載があること、そして、<3>原告及び被告NTTから買取証明書及び事実認定書等が提出されてから、昭和六三年更正処分の取消決定及び平成元年更正処分がされるまで約八箇月あること、以上の諸事情を総合勘案すれば、生野税務署は、原告に対し、原告が公社から受領した六五二〇万円を原告が公社に対してその共有持分を売却した売買代金であることを前提に、原告に対して昭和六〇年分の所得税の申告を修正するように促していたというべきであり、甲第五号証及び乙B第九号証の記載は信用できず、原告の主張を採用することはできない。

以上のとおりであるから、原告は、本件等価交換契約に基づき本件土地の共有持分を取得したということはできない。

2  もっとも原告は、本件等価交換契約に基づき、一〇五番一の土地に五四・四六坪の共有持分を取得した旨の主張をし、これに沿う供述をし、さらに、甲第二号証、甲第四号証の1、甲第五号証から甲第七号証まで、乙B第三号証の1、乙B第七号証、乙B第九号証にはこれに沿う記載がある。しかし、原告は、前記二1(三)で認定のとおり、被告NTTとの間での本件土地の売買交渉に最後まで関わることもなく、また、その進展状況についても特に尋ねることはなかつたのであるから、本件土地に共有持分を有している者としては、かかる態度は不自然というほかない。むしろ、<1>本件覚書1には、本件等価交換契約に伴う「交換差額」として西田が原告に対して六五二〇万円を含む七五二〇万円を支払う旨明記されていること、<2>他方、原告は、この点について金銭で表記されているけれども土地の共有持分をもっていると理解していた旨の供述をするのみで、それ以上に本件土地の共有持分を持っているにもかかわらず、かかる表記がされている理由について合理的な供述をなし得ていないこと、<3>本件委任状には、原告を受領代理人とし、さらに、土地売買契約代金の内金六五二〇万円の受領に関する件と記載されており、かかる記載からは、原告と公社との間で売買契約が締結されたのではなく、西田の依頼により便法として右六五二〇万円が原告に送金されたことがうかがえること、<4>他方、原告は、本件委任状について、公社の担当者から中間省略して欲しい旨の要藷をされ、担当者の立場を考慮して作成した旨の供述をするも、他に右供述を裏付けるに足りる証拠はないこと、<5>西田から公社に対して差し入れられた西田の署名押印ある本件覚書2には、本件売買契約に基づく売買代金二億四一八三万五七〇〇円の内金六五二〇万円を原告に直接送金して欲しい旨記載されていること、<6>前記二1(七)で認定のとおり、本件等価交換契約に基づき原告が所有権を取得した一〇五番四及び一〇五番六の各土地は原告を単独所有者とする所有権移転登記が経由されているのに対し、本件土地については、本件等価交換契約締結後も原告と西田の共有とする登記は経由されず、西田を単独所有者とする登記に変更は加えられていないのであって、この点についての合理的な理由が見出せないこと、<7>前記二1(二)及び(九)で認定のとおり、西田は、公社との本件土地売買に関する交渉の中で、公社に対し、本件土地は西田の単独所有である旨を告げ、さらに、田中調査官に対して原告が公社から受領した六五二〇万円は本件等価交換契約に基づく交換差金である旨答えていたこと、以上の各点を総合勘案すれば、原告が本件等価交換契約に基づき本件土地の共有持分を取得することはなかったというべきであり、原告の供述並びに甲第二号証、甲第四号証の1、甲第五号証から甲第七号証まで、乙B第三号証の1、乙B第七号証及び乙B第九号証の記載は信用することはできず、原告の主張を採用することはできない。

なお、前記二1(一四)から(一六)までで認定のとおり、西田は、原告に対して、本件確認書を交付し、また、被告NTTは、原告に対して申出証明書及び買取証明書を、生野税務署長に対して申出証明書、買取証明書及び事実認定書を提出している。しかし、(1)本件確認書については、<1>西田は他方で本件覚書2にも署名押印しており、また、<2>西田は、公社との本件土地売買に関する交渉の中で、公社に対し、本件土地は西田の単独所有である旨を告げ、さらに、田中調査官に対して原告が公社から受領した六五二〇万円は本件等価交換契約に基づく交換差金である旨答えていることからすれば、本件確認書の内容をそのまま信用することは困難であること、(2)申出証明書、買取証明書及び事実認定書については、前記二1(一三)及び(一五)で認定のとおり、原告及び前田が被告NTTに対して買取証明書を交付するように頻繁に求め、さらに、本件確認書が提出されたことから、当初の判断とは異なるものの円満解決の見地から申出証明書、買取証明書及び事実認定書を原告又は生野税務署長に提出したものにすぎないこと、以上のとおりであるから、右各文書の存在が前記認定を左右するものではない。

三  請求原因4について

以上の事実を前提に被告NTTの責任について検討するのに、前記二で認定のとおり、原告が本件等価交換契約に基づいて本件土地の共有持分を取得した事実はなく、したがって、公社は、原告からその共有持分を購入したものではなく、原告が公社から受領した六五二〇万円は原告及び西田の依頼に基づき公社が西田に対する売買代金の一部を原告に送金したものにすぎないのであるから、公社が原告からその共有持分を購入したことを前提とする原告の主張は理由がない。

四  請求原因5(一)について

原告は、生野税務署の職員が被告NTTに対して買取証明書を原告に交付しないように圧力をかけた旨の主張をし、さらに、原告及び証人前田は、被告NTTと交渉中、原告がトイレで中座した時に、被告NTTの豊田所長が前田に対して、税務署から買取証明書を出さないように働きかけられているとの話をうち明けた旨の供述をし、乙B第七号証、甲第七号証及び甲第六号証にはこれに沿う記載がある。

しかし、<1>豊田所長は、被告NTT本社所属の草加常務の指示により初めて前田及び原告と面識を持った者であり、前田及び原告に対して極めて慎重な姿勢で対応していたものであるところ、かかる豊田所長が、交渉相手である前田に対してたやすく右裏話なるものをうち明けるとは考えにくいこと、<2>右裏話の内容とされる税務署からの働きかけというもの自体、いつ、どこで、誰が、いかなる目的の下にどのような態様で行ったのか全く漠然としており、現実味に乏しいものであること、<3>生野税務署の職員が被告NTTに対して原告に買取証明書を交付しないように働きかける理由として、既に生野税務署長が原告が公社から受領した六五二〇万円を売買代金ではなく交換差金と判断して昭和六三年更正処分をしていることが考えられるものの、いまだ被告NTTに対して原告に買取証明書を交付しないように働きかけるほどの動機とはいい難く、他に生野税務署の職員が被告NTTに対して原告に買取証明書を交付しないように働きかける理由が見当たらないこと、<4>前記二1(二)で認定のとおり、、生野税務署は、原告が、公社から受領した六五二〇万円は原告が有していた共有持分を被告NTTに売却したことに基づく売買代金であり、それを証明する書類を被告NTTに交付するように依頼中である旨申し入れてきた際に、しばらく原告の右主張を裏付ける書類が提出されるの待っており、かかる生野税務署の対応からすれば、被告NTTに対して原告に買取証明書を交付しないように働きかけたとは考えにくいことの諸事情がうかがえるのであって、かかる諸事情を総合勘案すれば、原告及び証人前田の供述を信用することはできず、原告の主張を採用することはできない。したがって、右の働きかけの存在を前提とする被告NTTと被告国との共同不法行為の主張も理由がない。

五  請求原因5(二)について

原告と被告国との間では原告が本件土地に共有持分を取得していた事実は争いがないから、生野税務署長が結果的には誤った判断により昭和六三年更正処分をしたと判断せざるを得ないが、右処分に至る調査の過程において、前記二1(九)で認定のとおり、西田に対する調査の結果、原告が公社から受領した六五二〇万円が交換差金であるにもかかわらず所得税の申告をしていない疑いが生じたところ、<1>田中調査官による度重なる面接調査の要請に対しても原告は応じなかつたこと、<2>被告NTTに対する調査の結果により右六五二〇万円が交換差金である疑いが一層強まったこと、<3>右六五二〇万円は原告が有していた共有持分を公社に売却したことに基づく売買代金であり、それを証明する書類を被告NTTに交付するように依頼中である旨の原告の申入れに対し、生野税務署長は、右書類が提出されるのを待つことにし、原告が右書類を提出せず、右六五二〇万円は交換差金ではなく原告が有していた共有持分を公社に売却したことにより取得した売買代金であるから昭和五七年分の所得税については修正しない旨の回答をした後に昭和六三年更正処分をしていること、以上のとおり認められ、かかる点を総合勘案すれば、生野税務署長は調査を尽くした上で昭和六三年更正処分をしたものということができ、このように認定することは被告国が原告が本件土地に共有持分を取得していた事実を認めていることにより何ら妨げられるものではないから、右処分に国家賠償法上何ら違法(職務義務違背)というべき点はなく、原告の主張は理由がない。

六  請求原因5(三)について

原告は、田中調査官らによる調査が開始される前である昭和六〇年分の所得税の確定申告の際に、公社から受領した六五二一〇万円について、譲渡所得として申告することは可能であり、また、譲渡所得として申告することについて何の障害もなく、さらに、前記二1(一七)で認定のとおり、本件確認書、申出証明、買取証明書及び事実認定書が提出された後、生野税務署の勢口統括官は、原告に対し、昭和六三年更正処分を取り消す予定であること及びそのような場合、原告が公社から受領した六五二〇万円は本件土地の共有持分についての売買代金に当たるから昭和六〇年分の所得税について修正するように促していたのであって、原告には、右六五二〇万円を譲渡所得として申告する機会及び昭和六〇年分の所得税について修正申告をする機会は十分に存在しており(原告は、公共事業に供する土地の譲渡であるから、申告を要しないと思いこんでいたと言っているにすぎない。)、平成元年三月一〇日付けで昭和六三年更正処分を取り消し、同日付けで平成元年更正処分をした生野税務署長の行為に国家賠償法上違法というべき点はなく、原告の主張は理由がない。

七  結論

以上のとおりであり、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなくすべて失当であるから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石研二 裁判官 増田隆久 裁判官 谷村武則)

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